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著作権のニュースやコラム

映画のエキストラに氏名表示権はあるか(シン・ゴジラ観ました)

*このコラムは『シン・ゴジラ』の極微量のネタバレを含んでいます。

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「ねえ、シン・ゴジラ観た?」

「観たよ。おもしろかった」

「戦闘シーン、テンションあがったね」

「うん、あるシーンを観てたら、ふと、"はたらくじどうしゃ事件"という単語が頭に浮かんだよ」

「そんなこと考えるのは著作権法オタクだけだろ!しかも自動車じゃないし、全然関係ないよ」

ゴジラの姿には胸が熱くなったな」

「映画は僕もグッときた。エンドクレジットもすごい情報量で、観入ってしまった。クレジットによると、元AKB48前田敦子さんも出てたよね」

「あっちゃん、どこに出てたっけ?」

「序盤のほう。短いけどセリフもあったよ」

「エンドクレジットといえば、KREVAさんってどこに出てたの?」

「ん、2回観たけどわからなかった……」

「俺もわからなかった…。反対に、チョイ役ですごい存在感の人もいたよね」

「そうそう。片桐はいりさんとか忘れられないよね」

「すごいインパクトだった。一瞬何の映画なのかわからなくなったよね。あれ?これ『シン・ゴジラ』じゃなくて、かもめ食堂』だっけ? って思ったよ」

「言い過ぎだよ!」

「ともかく、エンドクレジットでは役まわりのある人の名前がのってたみたいだけど、名前のないエキストラの人もたくさんいただろうね」

「そうだね。前にアニメ監督の幾原邦彦さんのツイートで

とあったから、注意してクレジットを見たけど、幾原監督の名前はなかった気がする」

「そんな名前のでないエキストラさんも映画を支えていたよね。エキストラの人には、現場で演技の心構えまで配られたみたいだね」


「逃げ回る人たち、すごかった。みなさん演技だった。たしか鎌倉のシーンだっけ?路面電車の線路をこっちに向かって、すごい形相で走ってくる男性がいたよね」

「あの人いい顔だった。忘れられない」

「彼ってエンドクレジットに名前のせられないの?」

「この映画は監督の強いコントロールが及んでるからな・・・。のってるのかもしれないけど」

「法律的に、俺の名前を載せてくれって言えないの? あなた映画の著作権とか詳しいでしょ」

「ん、急にプレッシャーかけてきたな。法的には難しいと思うよ」

「そうなの? 著作権法には、たしか実演家の人にも何か権利があるんじゃないの?」

「まあね。順を追って話そうか。まず、エキストラの人は、法律のいうところの「実演家」になりそうだね」

著作権法 第2条1項3号
「実演」
 著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう。

第2条1項4号
「実演家」
 俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者をいう。


「なるほど。その前提で話をすすめよう(…じゃあ、映画には登場してないけど、モーションキャプチャーゴジラを演じていた野村萬斎さんはどうなるんだろう…)」


「(あれ、なんか考え事し始めたな。そしてゴジラみたいに手を動かしてるな。きっと野村萬斎さんのことを考えてるんだろうな…) そうね。実演家の人には、氏名表示権という権利があるよ」

第90条の2第1項
 実演家は、その実演の公衆への提供又は提示に際し、その氏名若しくはその芸名その他氏名に代えて用いられるものを実演家名として表示し、又は実演家名を表示しないこととする権利を有する。


「あれ、それなら、実演家の人は、エンドクレジットに俺の名前も入れてくれ、って言えるんじゃないの?」

「ところが、1つしばりがあって、実演家名の表示を省略できる場合がある」

第90条の2第3項
 実演家名の表示は、実演の利用の目的及び態様に照らし実演家がその実演の実演家であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるとき又は公正な慣行に反しないと認められるときは、省略することができる。

 

「どういうこと?」

「この条文の後半では、"公正な慣行に反しないと認められるとき"には、表示を省略することができる、って書いてるでしょ?」

「うん」

「この条文の読み方として、映画のクレジットに実演家の名前を載せなかったとしても、公正な慣行に反しないと解釈されてるんだ。たとえば著作権法の大家、中山信弘教授の本をみると、こう書いてる。」

例えば戦争映画に多数動員されるエキストラを考えれば判るとおり、著作者と比較すると実演家の場合には、現実問題として氏名表示を省略せざるを得ない場合が多い(…)
 中山信弘著作権法 第2版』(有斐閣、2014年)562頁

 

「そうなのかー。まあ観客としては、エンドクレジットがやたらに長くなっても、早くトイレ行きたくなるし、仕方ない部分もあるのかな」

「そうかもね。まあエンドクレジットに小さな文字で出なくても、今はエキストラさんがウェブを通じて自分から「出たよ」ってアピールすることもできるよね。あっ…」

「どうしたの?」

「いや、ゴジラとは関係ないんだけど、ついでに実演家の氏名表示権の解説を読んでたら、こんな記述を見つけてさ、

著作権法第90条の2第1項の)「その他氏名に代えて用いられるもの」は、あくまでも実演家個人を呼ぶ場合に限られており、その実演家が属するグループの名称、例えば、木村拓哉さんが所属しているグループの名「SMAP」までも含んでいるわけではない。
著作権法コンメンタール 3[第2版]』(勁草書房、2015年)49頁[増山周執筆]

 

この本、つぎに改訂するときは、SMAPの部分を書き直すんだろうなと思ってさ…」

「そんなこと心配しなくていいよ!」

「それにしても、こうして話しているうちに、エキストラの人のがんばりを確認したくなってきたな。もう1回映画館に行こうかな」

「うん、僕も余貴美子さんの『ご決断を!』というセリフをもう1回聞くために行ってくるわ」

「俺は今度こそKREVAさんを見つける」